「二千六百万年後」(横溝正史)

進化しているように見えて実際は退化です

「二千六百万年後」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
  短篇コレクション⑥」)柏書房

「横溝正史ミステリ短篇コレクション⑥」

「二千六百万年後」(横溝正史)
(「血蝙蝠」)角川文庫

「血蝙蝠」角川文庫 昭和時代の表紙

「二千六百万年」(横溝正史)
(「横溝正史探偵小説コレクション①」)
 出版芸術社

「横溝正史探偵小説コレクション①」

作家である「私」は、
眠りに落ちたまま未来へと
タイムスリップする。
第一の未来は
有翼人の支配する時代であり、
人々は翼で空を飛び
生活していた。
第二の未来は2600万年後の
卵生人の時代であり、子育ての
必要がなくなっていた…。

横溝正史がSF!?
専門外の創作だったためか、
本格的SFと比較するとどうしても
見劣りがしてしまうのですが、
それもご愛敬でしょう。

以前取り上げた
安部公房「鉛の卵」
テーマが似ていて、
人類のその後の進化について
描いた作品となっています。
安部は細胞内に葉緑体を取り入れた
「植物人間」を提唱しましたが、
横溝は「有翼人」と「卵生人」です。

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有翼人はその名の通り、
翼を持ち空を飛行できる人類です。
「肩甲骨が異常に発達していて、
 手頸から脇腹へかけて
 蝙蝠のような薄い膜が
 張っているらしかった」

イメージしてみるとやはり異様です。
服を着られないのではないか?
一応そちらの記述もあります。
「服装もだいぶ変わっている、
 インバネスを想像すれば、
 大して問題ない」

想像できません。

2600万年後の卵生人もまた言葉通り、
卵から孵る人類です。
そのために乳幼児期が存在せず、
子育てしなくてすむのです。
「一か月もすると言葉をおぼえ、
 二か月目には小学校へ入ります」

こちらはややブラック・ジョークも
混じっていて、
産んだ卵の一部を国家に献納し、
そこから孵った人間は、
平時は肉体労働、
有事の際は兵役に回されるという
設定です。

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それにしても進化しているように見えて
実際は退化です(当然ですが)。
有翼も卵生も便利な点は
確かにあるのでしょうが、
不利な点の方がはるかに多いはずです。

書かれたのはなんと戦前の
昭和16年(1941年)という本作品、
退化した新人類という視点は、
作家の創造力の限界などではなく、
進化しすぎた人類を
今一度過去に引き戻し、
自然と共生できる形態にしようという
提案なのだと思われます。
戦後に起こる、
自然破壊を伴った高度経済成長を
見越したかのような作品なのです。

横溝唯一のSF小説である
レアな本作品、いかがでしょうか。

※不思議なのは
 「私」の住んでいる世界自体が
 もうすでに未来
 (西暦2600年)なのです(作品中に
 「かつて私が生きていた
 紀元二千六百年の社会に
 おいても」という一節がある)。
 作品の設定上の必要性は
 全くないのですが、
 これは本作品執筆の前年昭和15年が
 皇紀2600年であることにひっかけた
 横溝なりの洒落か、
 もしくは「皇紀」とすべきところを
 「紀元」と書き誤ったか
 誤植が起きたかの
 いずれかなのでしょう。

〔追記〕
2020年5月に、
本書はめでたく復刊となりました。
TVドラマ「探偵・由利麟太郎」放送に
合わせたものです。

「血蝙蝠」角川文庫 令和復刊版表紙

表紙はマイナーチェンジしています
(「角川文庫」の表記の位置)。

〔「横溝正史ミステリ
  短篇コレクション⑥」収録作品〕

白い恋人
青い外套を着た女
クリスマスの酒場
花嫁富籤
仮面舞踏会
佝僂の樹
飾窓の中の姫君
覗機械倫敦綺譚
花火から出た話
物言わぬ鸚鵡の話
マスコット綺譚
恋慕猿
X夫人の肖像
八百八十番目の護謨の木
二千六百万年後
空蟬処女
玩具店の殺人
頸飾り綺譚
劉夫人の腕環
路傍の人
帰れるお類
いたずらな恋
上海氏の蒐集品

〔角川文庫「血蝙蝠」収録作品〕
花火から出た話
物言わぬ鸚鵡の話
マスコット綺譚
銀色の舞踏靴
恋慕猿
血蝙蝠
X夫人の肖像
八百八十番目の護謨の木
二千六百万年後

〔「横溝正史探偵小説
   コレクション①」収録作品〕

一個のナイフより
悲しき郵便屋
紫の道化師
乗合自動車の客
赤い水泳着
死屍を喰う虫
髑髏鬼
迷路の三人
ある戦死
盲人の手
薔薇王
木馬に乗る令嬢
八百八十番目の護謨の木
二千六百万年
※この本だけは
 表題から「後」が抜けています。
 経緯はよく分かりません。

(2021.6.30)

alan9187によるPixabayからの画像
おどろおどろしい世界への入り口

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